昨年11月にフランス金融市場庁(AMF)が行った全国調査によると、投資詐欺に遭ったフランス人は全体の5%に上るそうです。「投資前に聞いていた予定利益を得ることができなかった」、「リスクに関する説明を受けていなかった」、「投資したお金を失った」、そして悪質なものになると「投資した会社や担当者と連絡がつかなくなった」などということもあるようです。フランスではどのような投資詐欺が問題になっているのでしょうか?

歴史上の著名人の手書き文書への投資

まずはフランスで『手紙のマドフ』と呼ばれた詐欺事件をご紹介いたします。アリストフィルという会社は、投資家からお金を集め、主に歴史上の著名人の手書き文書に投資していました。アリストフィルのコレクションは13万点近くにも上り、『ナポレオンとジョゼフィーヌの婚姻契約書』、『ルイ16世の遺書』、『マリー・アントワネットの手紙』など、それはそれは見事な品揃えでした。アリストフィルはパリ6区に書簡・直筆博物館も保有しており、コレクションの一部の展示もしていました。

ほとんど全てがパソコン作業となり、手書きの書類がなくなりつつある現代において、歴史上の著名人の手書き文書の価値は今後も増すばかりだ、という言い分は確かに理にかないます。しかしながら「だから利回りは年8%以上になりますよ」という宣伝文句を素直に信じるのは如何なものでしょう。その時点で「手書き文書の価値が長年にわたりバブル状態で上昇し続けることなどないだろう。これは怪しい」と気が付いていれば被害に遭っていない訳ですが、残念ながらうまい話にひょいと乗ってしまう人は沢山いるものです。超低金利時代において8%以上の利回りを約束するアリストフィルには資金がどんどん集まり、最終的には約18 000人の投資家が推定総額8億5000万ユーロ(EURJPY=116として計算すると約986億円)を投資していました。一人当たりの投資額の平均は15 000ユーロから300 000ユーロと比較的高めで、中には100万ユーロ以上をつぎ込んだ投資家もいたようです。

大成功に見えていたアリストフィルですが、2014年の終わりに詐欺行為が表沙汰となり、昨年8月には会社清算手続きに入りました。創業者と関係者たちは詐欺とマネーロンダリングの罪に問われています。アリストフィルはマドフと同様、ポンジスキームと呼ばれる手口を使っていました。つまり顧客が受け取っていた高利回りは、本来の業務であるはずの手書き文書の売買により得られたものではなく、単に新規の顧客が投資したお金が、以前から投資している顧客に分配されていただけだったのです。それだけではなく、例えば250 000ユーロで購入したゴッホの手紙を、「推定価格867 000ユーロの手紙です」と言って顧客に高額投資をさせ、顧客がお金の引き出しを要求してきたら、アリストフィルが一旦、その文書を買い取り、値段を更に釣り上げて新規顧客に販売する、ということも行っていたのです。更には自分が所有権の50%の権利しか持たない文書を、まるで全ての所有権を保持しているかのように偽って投資家に売却したりと、よくもまぁここまで色々思いつくものだ、と感心する程、詐欺行為を繰り返していました。アリストフィルの被害者の会は、投資してしまったお金を取り戻すため、今も戦っている最中です。

減税商品

フランスの最高所得税率は45%と非常に高いので、高所得者は節税・減税に非常に敏感です。2016年現在、なんと450以上もの減税措置が用意されており、税金を減らしたい一心で、あまり深く考えずに投資し、失敗する人たちが後を絶ちません。特にフランス海外県への投資による減税措置においては、自分の目で投資対象を確かめに行くこともまずないため、かなり大規模な損害例が見受けられます。

フランス海外県において政府が力を入れる一定の産業に投資をすると、複雑なスキームを組むことにより2016年度では最大52 941ユーロの所得税の税額控除を受けられる、という『ジラルダン工業措置』のケースを見てみましょう。投資家がフランス海外県の産業に直接投資をすることは稀で、通常のケースでは『フランス海外県の産業に投資する会社の持ち株を購入する』という形を取ります。一般的には仲介会社が全てお膳立てをしてジラルダン工業措置の減税プログラムを販売しているので、まるで普通の投資信託に投資するかのように簡単に投資することができます。また銀行からの借り入れ等も組み合わせることによるレバレッジ効果で、投資額の110 ~ 114%に当たる金額を所得税額から減額することができるのです。それはそれは美味しい話に聞こえるのですが、どうやら落とし穴も沢山あるようです。

フランス海外県の太陽光発電への投資に関しては、数年前に税務署からお咎めを受けるケースが相次ぎました。ジラルダン工業措置を利用する顧客は高所得者が多いため、被害額もかなりの規模になります。LynxとDTDが販売したマルティニーク島への太陽光発電投資の節税商品では、2008年と2009年に約4000人の顧客から5600万ユーロ(約65億円)を集めたにも関わらず、実際に太陽光発電に投資された金額は860万ユーロのみで、残りは別の投資に回されるか、もしくは会社関係者の懐に入っていたのです。

投資時点ではもちろんそのようなことに全く気が付かなかった投資家達は、「いい投資をした」とばかりに「私はジラルダン工業措置を利用していくらいくらの投資をしました。ですから今年支払う所得税額はこれだけです」と確定申告をしました。ところが数年後、Lynx/DTDの詐欺行為を把握した税務署から手紙が届き、「当時のあなたの投資は減税対象にはなりませんので、正しい金額の所得税を延滞税付きで支払ってください」と連絡が入ったのです。GESDOMという会社の詐欺事件は、Lynx/DTDよりも更に規模が大きく、6000人以上の顧客から8000万ユーロ(約93億円)を集めていました。ところが本来の料金の2倍の金額で太陽光発電システムを購入したように領収書に虚偽の金額が記載されていたため減税効果が半額に変更されたり、ジラルダン工業措置で投資をしたことを証明する書類を発行してもらえなかったり、と本当にとんでもない出来事が目白押しでした。

減税制度があるからこそフランス海外県に資金が集まり、現地の雇用や産業に役立っている、と主張する人々もいます。しかしながら、減税措置で集めたお金で人気のない地域でホテルが建築され、あっという間に廃屋となっているケースなどもありますし、ジラルダン工業措置は大きな金額が絡み、遠い地域での投資になりますから、詐欺行為が起こりがちなのも事実です。2015年度、フランス海外県に対する減税措置により、政府は本来ならフランス本土で手に入れることができるはずの8億6000万ユーロの税収を海外県に投資しました。そのことにより海外県の経済が本当に効率的に活性化されているのかどうか、という議論はまだまだ続きそうです。

FX取引とバイナリーオプション

2015年度AMF(フランス金融市場庁)に寄せられた相談は何と14 424件もありました。苦情・被害報告は、2010年度は64件だったところ、2015年度は1656件にも上りました。その内の82%がFX取引とバイナリーオプションに関するものでした。バイナリーオプションとは、例えば為替レートが数分後、数時間後など将来の判定時刻において、現在の相場より上がるか下がるかを予想し、自分の予想が的中したら投資額に一定の倍率をかけた金額が得られ、外れたら投資額全てが損失となる、という仕組みになっています。上がるか下がるかの二者択一なので、ゲーム感覚で簡単に手を出す人が多いようです。

「誰でも簡単に短期間でお金を儲けられます」という甘い言葉に誘われて、初心者たちが次々とFX、バイナリーオプション、またCFD(差金決済)取引に参入しているのですが、AMFの調査によると9割の人達が損失を出し、その平均損失額は一人当たり10 900ユーロにも上るそうです。自分の行った取引で損失を出すだけならまだしも、無登録業者と契約してしまうと、入金額が丸ごと消えてしまうこともあり得ます。AMFは無登録業者のブラック・リストを公表しているのですが、リストの公表を始めた2010年にはたった4つのサイトしか掲載されていたかったところ、今ではその数、何と300以上です。パリ検事局では、この6年間でFX取引とバイナリーオプションの無登録業者のサイトにより、45億ユーロ(約5220億円)ものお金が失われたと推定しています。今年の3月に、イスラエルでアストン・インベストという会社の代表が摘発されたのですが、この会社が経営する複数のサイトにより少なくとも1億500万ユーロ(約122億円)がフランス人顧客から奪われていました。

これらの業者は、「まず最初は顧客に勝たせていい気持ちにさせて、その後、追加入金を促す」、「虚偽の為替レートをサイト上で使用する」、など、まさに本格的なプロの詐欺の手口を使います。「何かおかしいな」と顧客が気付く頃には既に数か月が経過していることが多く、口座解約を依頼しようにも担当者とはもはや連絡もつかない、というのがお決まりのパターンです。しかもそのような詐欺に遭った人に、「弁護士を紹介する」などと偽りながら再度近づき、「失ったお金を取り戻すことができますが、その為の手続き費用として今すぐxxxxユーロが必要です」などと持ち掛け、詐欺の二重被害まで発生しているのです。あまりの被害の大きさに、サパン財務相は、FX取引やバイナリーオプションを含むハイリスクの投資に関するインターネットやメールでの宣伝を禁止する法案を出し、つい3週間前に元老院で可決されたばかりです。政府はこの新法案により、詐欺の被害が減少することに大きな期待を寄せています。

投資詐欺に遭わないために

騙されないためには、どのようなことに注意すればいいのでしょうか?書きだすとキリがなさそうですが、これだけは必ずおさえておきたいポイントを3つ挙げてみました。

(1) 甘い話には要注意! ――― 誰でも簡単にお金を稼ぐ方法を教えると言ってきたり、世の中の相場よりも遥かに高い利回りを約束したり、リスクなしで多額の減税が受けられると勧誘してきたりしたら、舞い上がって契約を結ぶ前に、冷静になって考え直してみましょう。リスクゼロで驚異的な高利回りをゲットできることは、まずありません。

(2) 自分が知らない分野への投資には細心の注意を払う。 ――― ウォーレン・バフェット氏の名言の一つに「よく知らないものには投資しない」という言葉があります。どんなによさそうな話に聞こえても、行ったこともない地域への投資、全く詳しくない商品への投資には十分すぎるほど慎重になるのが正解です。それでもどうしても投資したくなってしまうこともあるかもしれません。その場合、未知の分野への投資は資産総額の5%以内に抑えておくのが賢明です。

(3) 商品を勧めてくる会社や人を見極める。 ――― 無登録業者が運営するサイトで取引しないことはもちろんのこと、実際に会って勧誘してくる人のことをじっくりチェックしてみましょう。その人は何年の経験を持ち、どの程度、その商品に詳しいのでしょうか?彼らにどんどん質問することをお勧めいたします。その商品を取り巻くマーケット環境や商品に関するリスク・デメリットについて語らせてみると、担当者の知識や誠実さをチェックしやすいです。もし話を反らせて、とにかく契約を急ぐような態度を見せたら、よくないサインです。その投資はあなたにとってぴったりの商品なのではなく、単にそのセールスマンが売りたいだけの商品である可能性が非常に高いです。


今回のコラムでは投資詐欺について取り上げましたが、『詐欺』とまでは言えなくても、「きちんとリスクの説明を受けず、あまりよく分からないまま投資をしてしまい、気が付いたら損失を出していた」というケースは、残念ながら頻繁に起こります。上記の3番目にあります『商品を勧めてくる会社や人を見極める』ということを心がけると、その点はかなり防げるようになるはずです。強く勧められたから投資する、というのではなく、自分にとって最適な投資を自らが選べるようになると理想的ですね。