フランスでの金融資産形成において必要不可欠な商品であるAssurance Vie(仕組みはこちらのページでご確認ください)。リスクを嫌うフランス人達は、口座内のお金の大部分を元本保証のユーロ・ファンドに投資しています。ユーロ・ファンドの金利がここ数年、下落し続けていることは当社の過去コラムでもお話しましたが、2014年度の金利は更にガクンと下がる可能性があります。その理由について詳しく検証してみましょう。
ユーロ・ファンドの金利の決まり方
ユーロ・ファンドはその名が示す通り『ファンド』です。投資家たちから集められたお金は各保険会社のユーロ・ファンド内で運用されています。多少の違いはありますが、元本保証という性格上、どの保険会社も債券中心のだいたい似通った運用をしています。ユーロ・ファンド内のお金がどこに投資されているか、という内訳の例を下記に示しました。
【表1】ユーロ・ファンド内訳の例
保険会社によっては債券への投資割合をもっと低く抑え、収益率アップを狙うために株や不動産への投資割合を多くしているところもありますが、基本的には上記のような非常に慎重なパターンにしていることがほとんどです。
通常のファンドでしたら「こういう運用をして利益(または損失)が出ました」で終わりですが、ユーロ・ファンドの金利が決定される際には別の要素も加味されます。法律により、保険会社は下記のように定められた利益をユーロ・ファンドの保有者に分配しなければなりません。
● 債券のクーポン収入や株の配当金など、投資から得た利益の85%以上。
● 信託報酬など、顧客から受け取ったファンドに関する様々な手数料から、実際の経費を引いて利益が残った場合、その金額の90%以上。
保険会社はこれらの利益を顧客に分配しなければなりませんが、(1)今すぐ分配するか、(2)予備のお金として取り敢えずは社内で温存し、8年以内に顧客に分配するか、どちらかを選ぶことができます。(2)のような準備金を十分に用意しておけば、マーケットに異変が起こり、ユーロ・ファンド内の投資から十分な利益が生み出せなかった年でも、それまでの準備金を付け足すことにより多少は金利を上げることができます。つまり準備金により、マーケットが荒れてもユーロ・ファンドの金利は安定したものとなり得るのです。利益分配をいつ、どの位の割合で行うかは、通常、年が明けてから(稀に年末に発表する会社もあります)各社の方針により決定されます。そのためにユーロ・ファンドは1年が終わってみないと、その年の金利を知ることができないのです。
下がり続ける国債の金利と増加するユーロ・ファンドへの入金額
フランス保険協会(FFSA)によると、2014年10月末時点のAssurance Vieの残高総額は1兆5047億ユーロです。今年の1月から10月の間に、新たに195億ユーロもの資金がAssurance Vieの口座に流れ込みました。そして今も昔もフランス人達はリスクを嫌いますので、Assurance Vie内に入金したお金の80%以上は元本保証のユーロ・ファンドに入れられています。
先程お話しましたように、ユーロ・ファンドではその大部分が債券(特に国債)に投資されます。今年、新たに入金された195億ユーロで、保険会社は大量に債券を購入しています。問題は、今が『超』が付くほど低金利時代であり、債券を大量に購入するのに適したタイミングではない、ということです。
【表2】 1995年~2014年の10年物フランス国債利回りの推移
(フランス中央銀行が公表しているデータを元に筆者が作成)
フランス中央銀行が公表している12月12日付けの10年物フランス国債利回りは0.903%でした。5年前に購入した国債からは毎年3.5%のクーポンが入ってくるところ、直近で購入した国債からは今後、毎年0.9%のクーポンしか得られない訳ですから、ユーロ・ファンドにとっては懸念すべき状況です。もちろんユーロ・ファンド内のお金はフランス以外の国債や社債にも投資されるので、フランス国債の金利よりは多少、いい利回りを得ることができるでしょうが、いずれにせよ低金利時代の今、購入した債券が将来生み出すクーポン収入には、あまり期待できません。
フランス中央銀行総裁の業界に対する圧力
金利が下がり続けているにも関わらず、ユーロ・ファンドへの入金がどんどん増え、保険会社が低金利の国債を買いまくっている、という現状に危機感を抱いている人がいます。フランス中央銀行のノワイエ総裁です。10月27日にノワイエ総裁は保険会社に対して、2014年度のユーロ・ファンドの金利を大きく下げるよう勧告しました。彼はなぜそのような勧告をしたのでしょうか?
現状ではどの保険会社でも、ユーロ・ファンド内に過去に購入した高利回り債券のストックが沢山ありますので、ユーロ・ファンドの金利はまずまず安泰です。ところが、今年に入ってから保険会社は毎年1%前後のクーポンしか付かない国債を大量買いしていますので、将来は低金利のクーポンしか生み出さない債券のストックが増え、つまりはユーロ・ファンドの金利がどんどん下がっていってしまうかもしれません。
過去に分配せずに積み立てられていた会社の利潤(前述の準備金)をユーロ・ファンドに回せば、暫くの間は何とかまともな金利を出せることでしょう。しかし、毎年毎年大盤振る舞いで利潤を分配してしまっていたら、あっという間に積み立て金は底を突きます。
そしてもし今後、急にマーケットの金利が上がったらどうなるでしょうか?低いクーポンしか付かない国債を大量に買ってしまっている保険会社は、マーケットの金利が急に上がっても、ユーロ・ファンドの顧客に対して高い金利を提示することはできません。すると、顧客たちはユーロ・ファンドよりも高利回りの他の商品に投資したくなり、一斉にAssurance Vieからお金を引き出すことでしょう。そうなると、保険会社はそのお金の引き出しに対応するため、手持ちの国債をほとんど投売り状態で売却せざるを得なくなり、債券市場は暴落、そして保険会社の資産状況も強烈に悪くなり金融業界全体のシステミック・リスクに発展するかもしれません。
そのようなことになっては大変なので、「本年度はユーロ・ファンドの金利を大幅に下げ、利潤は分配するのではなく積み立てに回して将来に備えるべきである」というのがノワイエ総裁のメッセージなのです。
ノワイエ総裁の言い分には一理ありますが、中央銀行の総裁が民間の保険会社に対して金利の指示をする、というのは如何なものか、という気はします。何ともフランスらしいお話ですよね。まだ2014年度の金利は発表されておりませんので、保険会社がこの忠告に従うのかどうかは確実ではありませんが、「準備金を多くしておいた方が安心だ」と考える会社自体は多いようで、恐らく本当に2014年度のユーロ・ファンドの金利はかなり下がるだろう、と言われています。
業界では2014年度のユーロ・ファンドの金利が2.2~2.5%くらいになることを予想しています。それでも現在のフランスのインフレ率である+0.3%と比べると、十分に高い利回りです。本年度のユーロ・ファンドの金利が下がるとしたら、それは将来の金利の安定を図るためなので、致し方ないことかもしれません。とは言え、顧客側から見ると面白くない状況ですよね。このままじっと我慢してマーケットが改善するのを待つのか、それともユーロ・ファンド以外のファンドにも投資をすることにより高利回りを狙うのか、各自のリスク許容量により判断が異なることでしょう。これからは益々、上手に資産運用をするよう自らが心掛けなければならない時代になりそうです。