フランスでは全世帯のおよそ3分の1に当たる約900万世帯が消費に関するローンを利用しています。しかしながら「顧客が気が付かないうちにローンを組まされていた」「借金が雪だるま式に膨れ上がってしまった」など、特にリボルビング・ローンに関してのトラブルが多発していました。今まで無法地帯だったこの業界に規制をかけるべく、ラガルド元財務相(現IMF専務理事)は2010年7月から2011年5月にかけて、段階的に消費者を守るための規制法を導入しました。今回のコラムではそのローンに関する規制法(通称ラガルド法)の主な内容を見ていきますが、まずその前に、多くの問題を巻き起こしているリボルビング・ローンの仕組みを確認してみましょう。

リボルビング・ローンでは予め一定の借入れ可能上限額(与信限度額と呼ばれる)を設定し、その限度額以内の金額を一度に、または追加で借り入れることができます。支払いは前もって決めてある非常に低い金額を毎月支払うだけで済みます。例えば与信限度額2500ユーロでリボルビング・ローンを始めた人が、初回500ユーロのローンを組み、1年後に1000ユーロ、2年後に500ユーロ、など次々と気軽に追加でローンを組んでも、支払いは当初からずっと毎月40ユーロのまま、などということが可能となるのです。元本を返済し終わったら、また新たに2500ユーロまでのローンを組めます。このように与信限度額を超えなければ何度もローンを組むことができ、一方で支払いは毎月一定額(しかも低額)であるが為に、借金をしているという感覚が薄れがちになり、借金地獄に陥る人が非常に多いのがリボルビング・ローンの特徴です。フランス語でリボルビング・ローンは様々な名称で呼ばれていましたが、2010年7月2日に発効された法律によりその正式名称はCREDIT RENOUVELABLEに統一されることになりました。

ラガルド法では、このリボルビング・ローンでのトラブルを少なくするために、どのような規制を設けているのでしょうか?ラガルド法のメインとなる5つの点について詳しく見てみましょう。

1. クレジット機能付きのメンバーズカードに関する規制

日本と同様、フランスでも様々なお店が顧客にプラスアルファの特典・サービスを提供するようなメンバーズカードを発行しています。フランスでこれらのカードはCARTE DE FIDELITEと呼ばれています。このメンバーズカードにクレジット機能が付いているものがありますが、それを利用して買い物をした場合は通常、月末に明細が送られ、顧客は振り込み、カード、または小切手で支払いをすることになります。もし顧客が期日までに支払いをしなかった場合、今までのシステムでは自動的にローン(多くの場合リボルビング・ローン)が組まれるようになっていました。また例えば「メンバーズカードに入会すれば、この商品は20%オフになります」といった宣伝が実は「ローンを組んで買い物をしたら」という条件付きなのに、それと知らずに顧客が入会してしまう、ということも頻繁に起こっていました。ラガルド法により今後は(1)クレジット機能が付いている場合は、メンバーズカード勧誘の広告にそれを明記すること、(2)ショッピングの際には通常、自動的に現金払いが適用され、顧客が敢えて選択した時のみクレジット機能が適用されるようにすること、(3)ローンを組むことを条件としたキャンペーン価格表示の禁止、の3つが適用されることになりました。

2. 通常のローンとリボルビング・ローンの選択

ショッピングの際にローンを利用する場合、フランスではこれまで、お店の人にリボルビング・ローンのみを勧められることがほとんどでした。通常のローン(必要な金額を予め定められた期間までに返済するローン)よりリボルビング・ローンを設定した方が、店員達に多くの手数料が支払われていたために、このようなことが行われていたと考えられています。金銭を貸し付ける業者には法律で上限金利が定められていますが、フランスでは通常のローンの法定上限金利よりも、リボルビング・ローンの上限金利の方が遥かに高く設定されているため、顧客にリボルビング・ローンを組ませることにより貸付会社の利益、ひいてはお店への手数料が格段に大きくなる、という訳です。ローン金利はまさにケース・バイ・ケースですが大まかに現在の相場を言うならば、ショッピングなどに利用される通常のローンでは金利7%前後、リボルビング・ローンでは金利20%弱、となる場合が多いようです。これらの状況を改善するためラガルド法により2011年5月1日から(1)1000ユーロ以上のローンを組む顧客に対して必ず通常のローンとリボルビング・ローンの両方を提示する義務、(2)リボルビング・ローンを組んだ店員にプラス・アルファの手数料を渡すことの禁止、(3)通常のローンとリボルビング・ローンの法定上限金利を徐々に近づけていき2013年3月31日には完全に統一すること(つまりリボルビング・ローンの金利が下がることが期待される)、が決定されました。

3. リボルビング・ローンの返済期間の短縮

毎月の支払い額を極端に低くしたリボルビング・ローンを利用した場合、消費者にとっては毎月利息を支払うのみで元本が一向に減らず、いつまでたってもローンを返済できないという状況が起こり得ます。しかも一体いつになったら返済が終わるのか見当が付かない、という消費者も山ほどいるのです。そのような状況を打開するために、ラガルド法は(1)リボルビング・ローンの月々の返済には必ず元本返済分も含まれるようにして、3000ユーロ未満のローンであれば返済期間は3年以内、それ以上の金額であれば5年以内に返済できるようにローンを設定すること、(2)月々の明細にローン完済までの推定期間を記載すること、(3)最低でも1年に1回、借り手にローン残高を報告すること、を制度化しました。

4. ローンを組み始める際の審査の強化

日本を含め多くの国において、クレジット・カードを発行する際にカード会社は、その新規顧客が過去に延滞や貸し倒れなどをしていなかったどうかを審査しています。フランスには中央銀行管轄のfichier FICPと呼ばれるデータ・ベースがあり、それを確認することにより顧客の過去のローン利用における問題点を知ることができます。しかしフランスではこれまでなぜか、お金の貸し手がficher FICPを確認せずに顧客に新規ローンを開設していました。しかも顧客に現在の収入や債務状況さえ聞かないことがほとんどだったのです。また、ローンを組んだらもれなくもらえる、という過度に高額なプレゼントまで用意されていることが多かったため、消費者が安易にローンを組み始めるケースが多々見受けられました。ラガルド法により今後は(1)貸し手側は必ずficher FICPで顧客の事前審査をする、(2)ローンを組む際に顧客の収入や債務状況を記載させる、(3)3000ユーロ以上のローンにおいては身分・現住所・収入を証明する書類の確認を行う、(4)新規ローンを組んだ際のプレゼントの金額の上限を80ユーロとすること、が義務付けられます。

5. 消費者保護の強化

フランスには法律による消費者保護(Protection du code de la consommation)が存在し、消費目的に対する一定額以下のローンに関しては、消費者が守られています。しかし保護法により守られる消費目的のローンの上限額が21 500ユーロと低かったため、例えば車の購入でローンを利用する人に対しては保護法が適用されないケースがある、などという不便さがありました。またローン申込みの撤回・契約の解除ができる期間(クーリングオフ期間)がこれまで7日間と非常に短かったり、使用していないリボルビング・ローンの契約が長期間継続されていたり、と消費者保護が手厚くないことが問題視されていました。そこで今回の改革において(1)今までは法律により消費目的に対する21 500ユーロ以下のローンだけが守られていたが、今後はその上限額が上がり、75 000ユーロ以下の消費目的ローンが守られることになった、(2)クーリングオフ期間はこれまで7日だったが、これが14日に延長された、(3)ローン契約書を見やすくするために重要事項を別途枠内に簡潔に表示しなければならない、(4)これらの義務を守らなかったローンの貸し手や仲介業者に対する懲罰が重くなる、(5)今までは過去3年間においてリボルビング・ローンを利用しなかった顧客に対して、リボルビング・ローンの契約の解除を提案しなければならなかったが、その期間が過去3年間から過去2年間に短縮される、という法律が適用されることになりました。


消費者を守るために導入されたこのラガルド法ですが、その効果については懐疑的な人もかなりいるようです。例えばラガルド法により、「今後は1000ユーロ以上のローンを組む顧客に対して、必ず通常のローンとリボルビング・ローンの両方をお店側が提供しなければならない」ということが決められましたが、『同じ返済期間の』2種類のローンを勧めなければいけない、という義務はありません。お店側としてはリボルビング・ローンの方を勧めたいのです。恐らくお店側は顧客にリボルビング・ローンを選択してもらえるように、敢えて『返済期間が極端に短く月々の返済額が高い』通常のローンと、『返済期間が長く返済額が低い』リボルビング・ローンの2つを勧めることでしょう。このような形で2種類のローンを勧められたら、「ローンを組むなら月々の返済額が少ないローンを選びたい」という安易な気持ちで、リボルビング・ローンを選択してしまう顧客は多いのではないでしょうか?また今回の法律により、リボルビング・ローンの法定上限金利を2013年3月末までに徐々に通常のローンの上限金利と統一化することになりましたが、リボルビング・ローンの上限金利が高すぎて消費者が困難に陥っている、ということがはっきりしているのに、その法定上限金利を下げるまでローン業者に今後2年間の猶予を与えるとは甘すぎる、といった意見もあります。

このように確かに完璧ではないラガルド法ですが、これまで野放し状態になっていたリボルビング・ローンに規制をかけ始めた意味は大きいと思います。安易に借りられるとは言え、借金である以上、責任を持って返せる範囲に収めなければなりません。ラガルド法によりローンの条件が明記され、悪徳商法に近いような宣伝が禁止されることで、債務超過に陥ってしまう人がぐっと少なくなるといいですね。