フランスでは結婚をする際に、夫婦の財産に関する契約を結ぶケースがよく見受けられます。「うちは財産契約なんて結んでいないから関係ない」なんて思ったら大間違いです。特別な財産契約を交わさずに結婚した人には、なんと自動的に夫婦共同財産契約が適用されてしまうのです!つまり、自ら公証人の下で財産契約を結んでいようがいまいが、フランスで結婚した人は、これらの夫婦財産契約の内容を知っておく必要があります。
夫婦間の財産に関わる契約は、夫婦共同財産契約と夫婦財産別契約の2つのグループに分けられます。この2つのグループ内にも、それぞれいくつかの契約種類があります。一つ一つ、契約内容を見てみましょう。
夫婦共同財産契約(LES REGIMES DE COMMUNAUTE)
1) LA COMMUNAUTE REDUITES AUX ACQUETS
特別な契約なしに結婚した夫婦には、この財産契約が適用されます。結婚前に双方が取得していた財産に関しては、不動産、それ以外の財産、全てにおいて、結婚後も夫婦それぞれの独立した財産とみなされます。しかし結婚後に得た収入、財産は、夫婦のどちらが得たものであろうとも、夫婦の共同財産となります。但し、生前贈与や相続で得る財産は、例え結婚後に受け取ったとしても、個別の財産とみなされます。
LA COMMUNAUTE REDUITES AUX ACQUETSでは、夫婦のどちらか一方の負債の支払い義務が生じた場合、もしその債務に絡む契約の締結を配偶者が了解していたのであれば、その負債を持つ人の財産、及び夫婦共同財産から返済することになります。夫婦の一方が、もう一方に隠れて融資を受けたり保証人になったりしていた場合、そこから発生する債務は、債務を負った本人の財産からのみ返済されることになります。
この夫婦財産契約では、どちらかがビジネスを立ち上げている場合、会社が負債を抱えてしまうなど万が一のことが起こった時、世帯の家計が脅かされる危険性があります。そのような事態を避けるために、夫婦のどちらか一方が起業する場合は、安心の為に後述の夫婦財産別契約(LES REGIMES DE SEPARATION DES BIENS)を結ぶカップルが非常に多いです。
2) LA COMMUNAUTE UNIVERSELLES
結婚前に所有していた財産、贈与・相続により受けた財産も含め、夫婦が全ての財産を共有するという契約です。また資産と同様、結婚前または結婚期間中に発生した債務に関しても、全て夫婦共同のものとなってしまいます。この契約には通常『一方が死亡した時、残された者は共同財産の全てを相続する』という特約が付けられます。この特約により、夫婦のどちらかが死亡しても、夫婦間の相続が一切発生しないことになるので、残された者は特別な手続きなしに全財産を安心して引き継ぐことができます。しかし夫婦に子供がいる場合、子供は夫婦両方が死亡した時点で、一気に相続を受けることになり、相続税負担が増える可能性が出てきてしまうので要注意です。
フランスでは以前、夫婦間の相続において最大40%の相続税率が適用されていました。相続税対策として高齢になった時に、夫婦の財産契約をこのLA COMMUNAUTE UNIVERSELLESに変更して相続税をゼロにする、という方法がよく利用されていました。しかしサルコジ大統領就任後、夫婦間、そしてPACSのパートナー間には相続税が課せられないことになりましたので、現在ではそのような対策を取る意味が薄れてきました。
夫婦財産別契約(LES REGIMES DE SEPARATION DES BIENS)
1) LA SEPARATION DES BIENS
その名の通り、財産は夫婦間で完璧に分かれているため、共通の財産というものは存在せず、財産は全てどちらか一方の所有物となります。2人の名義で財産を購入することもできますが、その場合、一方の持分は何%、もう一方の持分は何%とはっきり定義されます。負債に関しても基本的には各自の負債となりますが、唯一の例外として世帯の税負担に関する負債、及び家計維持のための負債は、夫婦共同の負債とみなされます。
2) LA PARTICIPATION AUX ACQUETS
この方法では、結婚している期間は財産・負債が夫婦間で別々になっていますが、死亡・離婚時の財産分配の際に、まるで先程の共同財産契約(LA COMMUNAUTE REDUITES AUX ACQUETS)を結んでいたかのようになります。この契約を結んでいる人が離婚する際には、双方が結婚している期間中に形成した財産を合計し、2分割することになります。例えば「自分はビジネスを興しているので、妻の財産を守るために財産別契約を結びたいが、死亡後には妻の生活を守るために自分が築いた財産の一部を相続させたい」などという時に利用すると便利な契約です。
夫婦財産契約の締結・変更
夫婦財産契約は結婚前に公証人の下、契約を結ぶことにより成立します。結婚してから2年以上経っていれば、夫婦財産契約を変更することができます。夫婦双方が納得することはもちろん、債務の有無や相続計画について十分考慮した上で、夫婦財産契約を変更することが望ましいですね。尚、夫婦財産契約を変更する際には公証人に対する費用、(必要であれば)弁護士に対する費用などがかかりますが、その額は夫婦が持つ資産の大きさにより変わります。
夫婦のどちらかがビジネスを興している場合は特に、ですが、夫婦財産契約を結ぶ意味は非常に大きいです。「知らなかった」ではすまされないような一大事に巻き込まれないためにも、家族にとって最適な夫婦財産契約を選ぶようにしましょう。