ここ最近10年、個人投資家の間で非上場企業の人気が非常に高まっています。フランス資本投資協会(AFIC)によると、1997年に個人投資家が非上場企業に投資した金額は1,200万ユーロだったものが、2005年には8億ユーロ(!)に上る程になりました。この人気の裏には2つの理由があります。1つ目は非上場企業への投資手段の種類が豊富になってきたということ。2つ目は、非上場企業への投資が税制面で優遇されることがある、ということです。
今回のコラムでは、非上場企業に投資するにはどのような方法があるのかを見てみましょう。
FCPI
まずは昨年の10月25日付けのコラムでご紹介したFCPI『技術革新投資ファンド』。その名が示すように、技術革新をしている会社に投資をするファンドです。このファンドを購入すると、その購入代金の25%に当たる金額を所得税額から控除することができる、という減税の特典を受けることができます。最近の金融法の改正により、2007年1月からFCPIファンドの投資先の幅が広がり、中小企業の株式を取り扱うAlternextのように、規制を受けない取引所で売買されている株式も、ファンド内に取り入れることができるようになりました。ファンド購入後、5年以上保有し売却した場合は、売却益に対して11%の社会保障費が課せられるのみで、税金は課せられません。投資資金は500ユーロ前後からとなっています。
FIP
同じく昨年10月25日にコラムでご紹介したFIP『近郊地域への投資ファンド』。前述のFCPIと同様の減税効果があります。FCPIでは技術革新を進める会社に対する投資が目的でしたが、FIPでは地域で産まれた中小企業に投資しようというのが目的です。FIPの投資資金は1,500ユーロ前後からになっています。
FCPR
『リスクを伴う投資ファンド』というずばりそのままのネーミングのこのファンドでは、ファンド内の50%以上の資金が非上場企業への投資に回されています。ファンド購入後、5年以上保有し売却した場合は、売却益に対して税金は課せられず、11%の社会保障費を払うのみになります。しかし、このFCPRには上記の2つのファンドに見られる、購入時の所得税減額の特典がないのです。しかもFCPRに対する投資資金は最低10,000ユーロ前後が必要となります。FCPI、FIPに比べると、このFCPRは個人投資家にとって魅力が少ない投資対象といえるかもしれません。上記のリスク分散のコメントを読まれて「それって、投資信託だって同じじゃないか?」と思われた方もいらっしゃると思います。その通り、通常の投資信託も分散投資なのですが、Trackersと投資信託には決定的な違いがあります。それは手数料の安さです。投資信託には購入時に「販売手数料」(株式投信の場合には2%程度が平均)、解約時に「信託財産留保額」(ない場合もあります)を支払わなくてはなりませんが、Trackersではこれらの手数料はかかりません。
ただし投資信託と同様、信託報酬はかかります。信託報酬とは、投資信託やTrackersを実際運用、管理している会社に対して支払う経費のことで、日々間接的に投資信託の財産から差し引かれています。Trackersの信託報酬は、年率0.0165~0.65%となっています。投資信託の信託報酬率は様々なタイプがあり、一概には言えませんが、年率0.5%前後から2%前後のものが多いので、やはりTrackersよりは高くつく場合がほとんどでしょう。
非上場株式への直接投資
所得税減額効果のある非上場株式への投資は、他にもまだあります。それがこちらの『非上場株式への直接投資』です。EU内の中小企業の会社の設立、または増資に対して投資した場合、投資金額の25%の金額を翌年の所得税額から控除することが出来ます。例えばEU圏内の、ある会社の設立の際に10,000ユーロを投資した場合、その会社設立年度に課せられる所得税額から2,500ユーロが税額控除されるのです。この税額控除を使える投資金額の上限は年に20,000ユーロ。(カップル(夫婦・PACS)に対しては40,000ユーロ)それを超える金額に関しては、その後4年間に渡り、繰越分に対する税額控除を受けることができます。丸5年間、会社設立の為に投資した金額を引き出さないことが条件となります。FCPI、FIPと違い、5年後、売却益が出た場合、通常通り税金を払わなくてはなりません。この減税措置は2010年12月31日までの投資に限られた、期間限定ものです。ご家族の中に起業される方がいる場合には、ぜひ利用したいシステムです。通常の投資信託を購入するには、その投資信託の販売を取り扱っている販売会社のみでしか購入できませんが、Trackersは証券取引所に上場されているので、普通の会社の株を取引するのと同様、どこの証券会社を通じてでも売買することができます。また基準価格でしか取引できない投資信託と違って、指値や成り行き注文での売買もできます。
非上場会社へ投資する会社の株を買う
パリ・ユーロネクストに上場している会社の中には、Wendel Investissement、Eurazeoなど、非上場企業への投資を得意としている会社がいくつかあります。自ら直接、非上場企業に投資するのと違って、プロに任せるという安心感、また上場企業の株なので流動性があり、すぐに売買できるのが魅力な方法です。FCPI、FIPのファンドのような特別減税措置はありません。投資金額は120ユーロ前後からになります。
トラッカー
フランス版ETFのトラッカーでも非上場企業に投資することができます。(トラッカーの特徴については2006年3 月5日付けのこちらのコラムをご参照ください)
投資信託のように分散投資ができ、尚且つ取引所に上場されているために取引しやすいトラッカー。現在、非上場の会社に投資するトラッカーは、Lyxor ETF Privex とSGAM ETF Private Equity LPX 50の二つがユーロネクスト・パリに上場されています。投資金額も9ユーロ前後からとお手軽にできますが、注意すべき点もあります。これらのトラッカーではアメリカの非上場企業に多く投資しているため、株価自体が上がっていても、為替の動向次第ではユーロ建てのトラッカーの値は下落する、ということもありうるのです。
投資信託
123 Convictions という投資信託ファンドは、非上場の会社に投資したい初心者の方にとって、リスク分散の上で非常に便利な商品です。このファンドの60%は、EU圏内の上場している中小企業の中で成長が見込まれる30数社を厳選して投資。そしてファンドの30%を上限として、前述の『非上場会社へ投資する会社の株』を購入しています。ファンドの残りの10%はLBO(レバレッジド・バイアウト)の対象になる企業などに投資されます。『非上場会社へ投資する会社の株を買う』だけでも分散投資が見込まれますが、この投資信託では、非上場会社へ投資する会社、数社に投資する訳ですから、更なる分散投資となります。このファンドの基準価格は2007年4月5日付けで135.11ユーロです。
非上場企業への投資方法は、ここ数年でだいぶ多様化してきました。ごく少額から投資できるものも多いので、気軽に出来るようになり、非上場企業への人気が高まっているのでしょう。自身のリスク許容範囲、そしてアセット・アロケーションに気を配りながら、これらの非上場企業への投資をしたいものですね。