4月~5月のフランスの大統領選に向けて、政治家たちは戦いの真っ最中です。中道右派は統一候補を選ぶための予備選を昨年11月に終え、フィヨン氏が勝利を収めました。

そして今、右派に比べるとかなり遅いスタートですが、左派陣営の予備選が行われています。先週末の第1回投票ではアモン氏とバルス氏がそれぞれ37%、32%の票を集め、今度の日曜日が決選投票となります。

中道右派の予備選では430~440万人が投票したというのに、先週末の左派予備選の投票者は僅か165万人程度にしかすぎませんでした。

左派はそれほどまでに衰退しているのでしょうか?いえいえ、そういう訳ではなく、この低い投票者数は『左派で人気のマクロン氏とメランション氏が、予備選に参加していない』ということが非常に大きく影響しているのです。

彼らはなぜ今回の予備選に参加しなかったのでしょうか?左派予備選は、現与党の社会党がメインですが、他の左派政党にも門戸は開かれています。とは言え『全ての左派政党は、この予備選に参加しなければならない』などという義務はありません。

もしオランド政権が大人気なのであれば、与党と同一の予備選に参加することで、より多くの支持者を獲得するチャンスもあるでしょう。しかしご存知の通り、オランド大統領は史上最低の支持率しか持たず、社会党から次期大統領が出る可能性はゼロです。よって与党以外の左派政党の候補者が、この予備選に出るメリットを感じないのは当然かもしれません。

また「予備選に参加したら負ける可能性があり、大統領選に出られなくなるかもしれない。だったら予備選に参加せずに、独立候補として直接、本選に出馬した方がいい」という考えもあるでしょう。

メランション氏は「そこそこの人気」程度ですが、ここ最近のマクロン氏の台頭には目を見張るものがあります。

1月20日にIPSOSにより行われた世論調査によると、大統領選第1回目投票では、

【もし左派予備選でアモン氏が勝利した場合】
ルペン氏が27%、フィヨン氏が26%、マクロン氏は20% 、メランション氏は13% 、アモン氏が8%

【もし左派予備選でバルス氏が勝利した場合】
ルペン氏が27%、フィヨン氏が25%、マクロン氏は18% 、メランション氏は15% 、バルス氏が9%

の票を集めるだろう、という結果が出ました。
つまり、今週末の左派予備選第2回投票で誰が勝とうが、その勝者は本選で5位にしかなれない、ということです。これでは、投票する人が少ないのも無理はないですね。

マクロン氏は今のところ常に3位です。

そんな状況下で、おととい(1月25日)大きなスキャンダルが飛び出しました。何とフィヨン元首相が過去8年にわたり、自分の奥さんを議員秘書などの名目で雇い、トータルで約50万ユーロ(約6100万円)の公的資金を給与として支払っていたというのです。家族を雇っても違法ではありませんが、問題は「フィヨン夫人は実際の勤務がなかったのに報酬を受け取っていたのではないか?」というところにあります。

大統領選の3ヵ月前というこのタイミングに、降って湧いたような不正疑惑。今のところフィヨン氏は断固否定していますが、限られた時間内に自らの潔白を証明することができるのでしょうか?誠実さが売りだったフィヨン氏にとって、このスキャンダルは致命的となるかもしれません。

となると4月23日の仏大統領第1回投票では、これまで当選確実と考えられていたフィヨン氏でなく、若く勢いのあるマクロン氏、そして極右のルペン氏が上位2人となり、5月7日の第2回目投票にて、マクロン氏対ルペン氏の一騎打ちが行われる、というシナリオも現実味を帯びてきました。そうなれば、左派はもちろん、中道右派の票も容易に集められるマクロン氏が圧勝することは、ほぼ確実です。

世界中で極右の台頭が懸念される今日において、もしかするとフランスでは左派出身の大統領が誕生する可能性もゼロではなくなってきたようです。