9月19日にINSEE(フランス国立経済研究所)が、2015年度におけるフランス人の所得に関するレポートを発表しました。このレポートよりますと独身の可処分所得(職業所得、年金、失業保険、家賃収入、生活保護など「実収入」から税金、社会保障費負担などの「非消費支出」を差し引いた額)の中央値は、年20,300ユーロ(つまり月々1,692ユーロ <約23万円>)だったそうです。中央値とは、全てのデータを小さいものから順番に並べた時に、ちょうど真ん中にくる値ですから、「フランスで20,300ユーロの可処分所得を持つ独身者にとっては、自分以上の所得を得ている人と、自分以下の所得しかない人が、ちょうど同じ人数いる」ということを意味します。
家族世帯ではこの数値に調整が入りますので(詳しくは当社の過去コラム『格差が縮まるフランス社会』をご参照ください)、子供のいないカップル世帯の場合、年30,450ユーロ(月々2,538ユーロ <約34万円>)、14歳未満の子供が2人いるカップル世帯の中央値は42,630ユーロ(月々3,553ユーロ < 約48万円>)が中央値となります。
もし可処分所得が独身で年に37,510ユーロ(月々3,126ユーロ <約42万円>)以上なら、フランスでは上位10%に入り、反対に年に10,860ユーロ(月々905ユーロ <約12万円>)以下なら、下位10%に位置していることになります。
格差は微妙に上昇したものの、さほど大きな変化はありませんでした。2010年から2012年にかけて0.300以上あったフランスの『ジニ係数(数値がゼロに近ければ近い程、国民が平等な所得を得ていることを示す)』は、2013年から2015年の間、0.300未満に保たれています。
しかしながら、2015年度、上位10%の人たちの可処分所得は前年度比1.4%上昇したにも関わらず、下位10%の人たちの上昇率は0.3%のみで、上位と下位所得者の所得の伸びに違いがあり、2013年以降、貧富の差は再びじりじりと広がってきています。相対貧困率(可処分所得の中央値の60%以下の所得しか持たない層を貧困層として計算)も2013年度の13.8%から、2014年度が14.0%、2015年度が14.2%と、少しずつ高まっているので心配ですね。
とは言え、貧困層内部における格差は縮まっています。INSEEのレポートでは貧困強度レベルも掲載されておりまして、これは『可処分所得の中央値の60%以下のレベル』と『そこに属する貧困層の中央値』がどれ位離れているかを示したものです。この貧困強度が2014年度の20.1%から2015年度には19.6%へと0.5ポイント低下したのです。オランド社会党政権下における低所得者層への援助の強化により、貧困層の所得が底上げされた効果が、このような形ではっきりと表れたと言えるでしょう。
社会党政権が終わり、今年の5月から中道政権へと移り変わったフランスの格差問題は、今後どのような展開を迎えるのでしょうか。社会全体がよくならないと、極端な話、不満が暴動となって爆発することもあり得ますので、平和で安心な日々が送れなくなってしまいます。次々と改革を進めているマクロン大統領には、貧困格差を少なくしながら経済発展を促す、という大変な任務実現に向けて、ぜひとも頑張ってもらいたいものです。