在仏日本人のほとんどの方は、今でも日本に銀行口座をお持ちなのではないでしょうか?今回のコラムではそのようなフランス国外にある口座に関する申告や、最近の規制の動向についてまとめてみました。

海外口座を保有していることに関する申告

海外口座に関する申告は2種類に分けられます。1つ目は『海外に口座を保持しているかどうか、という口座の有無に関する申告』、そして2つ目は『その海外口座から利益が出ている場合の所得の申告』です。

フランスでは自営業者はもちろん、会社員も確定申告をしなければなりません。2019年から源泉徴収がスタートした後も、確定申告はこれまで通り続けなければならないのです。

その確定申告書の中に、海外口座の有無を記載する欄があることをご存知でしょうか?下記の画像は通常の確定申告書2042番用紙の一部です。フランス国外に銀行や証券会社で口座をお持ちの方は、こちらに赤い丸で示しました8UUの欄にチェックを入れることになります。

そして、3916番用紙という別の申告書に金融機関名、口座番号、住所などを記載した上で確定申告を行ことになります。ちなみに、この用紙には残高を報告する欄はありません。フランス国外の海外口座の存在を申告していなかったことが税務署にばれてしまいますと、罰金として一口座につき1,500ユーロが徴収されてしまう、というペナルティーも用意されておりますのでお気を付けください。

海外口座から発生した利益

前述のように、まずは海外口座の保有の有無を申告する訳ですが、その海外口座から利子所得、配当金、株の売却益などが発生していた場合、例え日本で既に課税されていたとしても、フランスでもそれらの所得を確定申告書に記載して提出しなければなりません。

しかしながら両国とも、外国税額控除の制度がございます。日本で既に支払った税金は、フランス側で税額控除をしてもらえますので、二重課税にはなりません。

海外口座から利益が出た場合、確定申告の2047番『フランス居住者が海外で得た所得の申告書』という専用の用紙にて、海外で得た所得、そして海外で支払った税額を記載することになります。

「日本で発生した所得に対して、日本でちゃんと税金を支払っているのだから問題ない」と思いがちですが、このようにフランスでも申告義務があるのです。もし日本で発生した株の売却益を日本でしか申告・納税していなければ、それはフランスの税務署側から見ると『申告漏れ』ということになりますので、注意が必要です。

海外で発生した利益を申告していなかった人のための特別窓口

税務署にとって、海外口座を利用した国際的な脱税や申告漏れは悩みの種です。そこでオランド前政権下の2013年、フランス政府は海外口座から発生した利益に関する税金を精算するための特別窓口の設立を発表しました。「今、自ら申告してきちんと税金を精算してくれるのであれば、延滞料などのペナルティーを少々減額してあげますよ」と呼びかけ、それまで海外口座で利益を出していた人たちに申告を促すことが目的でした。この特別窓口は大成功を収め、政府が公表したデータによりますと2014年から2017年の間に5万件以上の申告があり、海外口座に置かれていた320億ユーロ(約4兆2880億円)の資産に関する税金が精算され、78億ユーロ(約1兆452億円)の税収がもたらされたそうです。精算された海外口座の85%はスイスに置かれていました。

この特別窓口は本年度末にて終了することが決定しています。窓口終了の最大の理由は、次にご説明します『CRS(共通報告基準)に基づく非居住者の金融口座情報の多国間自動的情報交換制度』です。この制度が多くの国で導入された後は、わざわざ海外口座保持者からの申告を待つまでもなく、自動的にフランス税務署に海外口座情報が入るようになりますので、このような窓口はもはや必要ない、と政府が判断した模様です。

CRSに基づいた金融口座情報の国際間での自動的交換

CRS(共通報告基準)とは、外国口座を利用した脱税や租税回避の取り締まりを強化するためOECDが策定したものです。CRSに従い、金融機関は非居住者の口座情報を税務当局に報告し、その情報が各国の税務当局間で自動的に交換されるようになります。現在、CRSによる情報交換の実施を決定している国は100ヵ国超で、その内、半数近い国は今年の9月から既に、非居住者が保有する口座情報を他国の税務当局に報告し始めています。残りの約半数の国々でも、2018年9月より情報交換が実施される予定です。ちなみにフランスでは今年の9月にスタートしておりまして、日本では来年9月からのスタートとなります。

この自動的交換制度により、税務署は自国に住む居住者が海外に保有する口座情報を把握することが容易になり、脱税防止に向けて大きく前進することが予想されます。この制度の参加国には、スイス、シンガポール、ケイマン諸島など、これまで租税回避に利用されることが多かった国々の名前も見受けられます。金融機関により提出される非居住者情報とは、氏名、住所、居住地国、納税者番号、口座残高、そして利子・配当等の年間受取総額などです。

UBSやクレディ・スイスが脱税の手助けをしていたことや、パナマ文書の流出など、ここ最近、大規模かつ国際的な租税回避が問題になることがよくありましたので、税務当局側もいよいよ各国との連帯を深めて本気で取り締まりを行うことになった、という訳ですね。


今回のコラムをお読みになられて「海外口座に関して、ここまでフランスで申告しなければいけなかったなんて、全く知らなかった!」と思われる方も多いのではないでしょうか?

当社は税の専門家ではございませんので、上記のような税に関する一般的なご説明はできますが、具体的な税のご相談をお受けすることはできません。申告についてご心配な方は、仏税務署サイトでダウンロードできる確定申告の説明書を徹底的に読みこまれたり、税務署へのお問い合わせ、または税理士にご相談されることをお勧めいたします。脱税や申告漏れを防ぐための国際間協力はこれからもどんどん強化されることでしょう。後々問題が起こらないように、正しく申告しておくに越したことはないですね。