FNAIM(仏不動産連盟)によると2011年度のフランス全土の中古物件価格は7,3%上昇しました。パリの上昇率はひときわ高く、2011年第4四半期の価格は前年同期と比べ14.7%も上昇した、とパリ公証人議会は報告しています。
表1 フランス全土の中古物件価格の推移
(2000年の価格を100とし、それと比べて何%上昇したかを示しています)
(出典 : FNAIM)
しかし2011年度の高い上昇率の大部分は年の前半に達成されたもので、実際のところ昨年後半から急に不動産価格と売買件数は落ち始めているのです。この現象は一時的なものなのでしょうか?それともいよいよ不動産バブルが崩壊するのでしょうか?現在のフランスの不動産市場を取り巻く様々な環境を検証してみましょう。
不動産関連の税制改革
財政難に苦しむフランス政府は赤字を削減すべく、ここ数ヶ月の間に立て続けに法改正を行っています。その中には不動産業界を悩ませるような改革もいくつか含まれています。特に業界に衝撃を与えたのが不動産のキャピタルゲインに関する税制の変更です。フランスでは保有年数に応じて、キャピタルゲインの一部が非課税となります。これまで非課税部分は保有年数が上がるごとに徐々に増えていき、15年以上不動産を保有した後に売却すると、そのキャピタルゲインは完全に無税となっていました。ところが昨年の金融法改革により、2012年2月1日以降の売買に関しては保有期間が30年を超えないと無税にならないようになってしまったのです。新しい制度におけるキャピタルゲインの非課税割合は次のとおりです。
この表をご覧いただくとお分かりになるように、非課税割合は30年間にわたり均等に大きくなっていくのではありません。非課税割合が非常に大きくなるのは不動産を購入してから25年目に入ってからで、それまではごく僅かな非課税枠が用意されているのみです。例えば不動産を購入してから丸17年経った後に売却したとすると、キャピタルゲインの24%部分のみ非課税になる、つまり利益の76%は課税されてしまうことになります。これまでは不動産を15年以上保有していれば、その売却益に対して税金が課せられなかったことを考慮すると、この改革は投資家にとってかなりの痛手となることは間違いありません。ちなみに主たる居住用住居は現在のところ、キャピタルゲインに関して非課税とされていますが、何しろフランス政府にはお金がありませんから、今後、課税されるようになる可能性も大いにあります。
マイホーム購入者にとって面白くない改革も行われました。以前、当社の過去コラムで取り上げましたゼロ金利ローン『PTZ+』の改正です。本年度よりPTZ+の条件がいくつか変更になったのですが、その変更の中で一つ致命的な事項がありました。今まではPTZ+を利用して、中古・新築、どちらでも購入することができたのですが、今後はごく一部の例外を除いて、中古物件を購入する際にはPTZ+を利用することができなくなってしまったのです。FNAIM(仏不動産連盟)によると2011年度、PTZ+を利用して購入された物件数は36万件で、そのうち30万件が中古物件だったそうです。PTZ+を中古物件で使うことができなくなった今、「PTZ+のお陰でマイホームを購入できた」という人は大幅に減少することでしょう。
もう一つ話題になった法改正があります。減税措置Scellierです。当社の過去コラム『2011年度 フランス不動産市場の展望』にて、2011年度よりScellierの魅力が激減してしまったことを既にお話しましたが、本年度よりその減税効果が更に半分近く小さくなってしまいました。多くの投資家達は「もはやScellierで投資する意味はない」と考えているようです。
住宅ローン
4月3日にフランス中央銀行が発表した数字によると、2012年2月に新規で組まれた住宅ローンの金額は73億ユーロで、前月比マイナス約40%と大きく下がりました。その理由を「選挙を控えて不動産購入を手控えている人が多いからだ」と一言で片付ける人もいるようですが、前述の不動産関連の税制の変更や、銀行が返済能力の高い人にしか貸さなくなってきたという現象も大きく影響しているようです。
2010年の終りに底を打った住宅ローン金利もじわじわと上がっています。また住宅ローンの平均返済期間がこの3月に急降下したことも非常に注目すべき点かと思われます。銀行側が安心できる顧客にしか長期のローンを提供しなくなってきた、という状況が顕著に現れてきました。下記のグラフは2001年以降の住宅ローン平均金利と平均返済期間を表しています。
表2 住宅ローン平均金利の推移
(出典 : CREDIT LOGEMENT / CSA)
表3 住宅ローン平均返済期間(月数)の推移
(出典 : CREDIT LOGEMENT / CSA)
低い金利と長い返済期間により支えられてきた不動産価格の均衡が、まさに崩れそうな前兆をこれらのグラフから読み取ることができます。
世界各国に押し寄せる不動産バブル崩壊の波
90年代後半から先進国諸国の不動産価格は大きく上昇してきました。米国では欧州よりも一足先に2006年にバブルがはじけ、未だに低迷を続けています。欧州の不動産価格下落の波は米国より少し遅れて、アイルランド、スペインなどで2008年から本格的に始まりましたが、フランスの不動産市場は今のところバブルの崩壊なくまだ持ちこたえています。しかし上記でお話しましたように、昨年後半から明らかに価格下落トレンドの兆候が見られるようになってきたことは確かです。3月31日付けのThe Economist誌によると、フランスの不動産価格は本来あるべき価格より47%も過大評価されているそうです。失業率が上昇し、金融機関に厳しい自己資本規制が義務付けられる、という状況下において、ユーロ圏の不動産価格下落基調はまだまだ続きそうであると同誌は推測しています。
もっともらしい理由を掲げ「だから不動産価格は下がらない」という神話が作り上げられ、誰もがそれを信じていたところ突然価格が下落し始め、その時になって初めて「あれは不動産バブルだったんだ」と気付く、というパターンは世界中で過去に何度も繰り返されています。米国から始まり、アイルランド、スペインと徐々に欧州にも広がりつつある不動産価格の大幅下落の波はフランスにも波及するのでしょうか?高騰しすぎた不動産価格、増税、高い失業率、銀行の貸し渋り、とバブル崩壊のお膳立ては十分に整っているように見えます。しかしながらフランスの不動産に対する需要はそれらの逆境を乗り越えられるほど強い、という意見もあります。いずれにせよ本年度、フランス不動産市場を取り巻く経済環境は極めて悪いので、価格がこれまでと同様に上昇する、ということはまず有り得なさそうです。