5月8日のフランス大統領決選投票ではサルコジ氏が53%の票を集め、次期大統領の座を獲得しました。今回のコラムではサルコジ新大統領が掲げる公約の中から、特にファイナンシャル面に影響を与えるであろう政策について分析してみたいと思います。
直接税の合計は収入の50%までに抑えられる
2007年1月1日より、直接税の合計が所得金額の60%を超える世帯は、税務署に申告すると、その越えた部分の払い戻しを受けることができるようになりました。サルコジ新大統領は、その直接税の上限を60%から50%に下げることを公約しました。また、ここでいう『直接税』が現段階では所得税、住民税 、固定資産税、富裕税(ISF)のみを指しているのに対し、サルコジ新大統領は更に社会保障負担(CSG + CRDS)も直接税とみなし、その全ての税負担の合計が所得の50%を超えないようにする、と提案したのです。
経済・財政・産業省によると、直接税の所得に占める割合を60%に抑えるという、今年から始まった政策により、93,000世帯が恩恵を受けることができるそうです。そのうちの77,000世帯は負債を抱えている個人事業主。残りの16,000世帯はというと、高収入による多額の所得税を支払い、更に多額の富裕税を課せられている富裕層なのです。今日、この60%の上限により国は4億ユーロを該当者に還元することになりました。ちなみにその内の3億5000万ユーロは富裕層に還元される金額です。
直接税の所得に占める割合が60%から50%に下がったら、一体どれくらいの負担増になるのでしょうか?経済・財政・産業省によると、その金額は最低でも20億ユーロに上る試算だそうです。
この新たな政策は、富裕層にとってこの上なく素晴らしいニュースです。フランスの高い税金を逃れるためにスイスで暮らしていた芸能人も、このサルコジ新大統領の改革のお陰で、またフランスに戻ることができそうです。
住宅ローンを有する場合の所得税額の特別控除
上記の改革から得られる恩恵を受けられる人は限られていますが、こちらの住宅ローンに関する特別控除は、多くの人が利用することができそうです。サルコジ新大統領は、主たる居住用住居を購入する際に、住宅ローンの利息部分を所得税から減額できるようにする、と公約しています。また所得が低いために所得税を払っていない世帯に対しては、所得税減額ではなく、援助金を渡すことにするそうです。この特別控除に掛かる費用をサルコジ氏の所属する党、UMP(国民運動連合)では10~15億ユーロと見積もっています。「もっと掛かるはずだ」という意見もあるようですが、「控除できる金額の上限をどの位に設定するのか?」また「今後、新たに借りるローンにのみ適用されるのか?」などによって費用は大幅に変わってくることでしょう。まだ今現在の段階では、具体的な仕組みは明らかになっていません。
このサルコジ新大統領の政策を見て「これ、日本にもあるよね」と思われた方もいらっしゃると思います。そうです。日本の住宅借入金等特別控除と非常に似ていますね。日本では物件の床面積、控除を受ける人の年収、ローンの借入期間などに制限がありますが、果たしてサルコジ新大統領の政策ではどのようになるのでしょうか?
相続税の廃止(但し、お金持ちに対しては続行)
日本では相続税の計算において、課税価格の合計額から一定の基礎控除額を控除し、課税遺産総額を算出します。基礎控除額以上の財産を受け取った場合に限り、相続税を支払うことになります。日本ではその基礎控除額が非常に高いため(基礎控除額=5,000万円+1,000万円x法定相続人の数)、実際に相続税を支払う人は全体の5%程度のみです。しかしフランスでは、この基礎控除に当たる金額が非常に少ないのです。
課税遺産総額から相続人全体分の基礎控除額を引く日本と違い、フランスでは各相続人が取得した遺産から、その相続人に適用される基礎控除額を控除し、残りの金額に相続税が課せられます。基礎控除額は被相続人との関係によって変わってきます。例えば被相続人の子に適用される基礎控除額は50,000ユーロ、配偶者に対しては76,000ユーロです。このようにフランスでは基礎控除額が低いため、多くの家庭が相続税を課せられているのです。
サルコジ新大統領は、生涯かけて働いて培ってきた財産を子孫に渡すことができるようにと、お金持ち世帯を除いた全ての家庭に対する相続税の廃止を提案しています。具体的に『お金持ち世帯』をどのように特定するのかは定かではありませんが、恐らく基礎控除額を大幅に引き上げるものと思われます。
この他にもサルコジ新大統領は、学生のアルバイトに関しては税金を払わなくてもいい、など減税に向けての意気込みを熱く語っています。減税により発生する国の負担増を、経済発展で埋め合わせることができるのでしょうか?
サルコジ氏が正式に大統領に任命されるのは来る5月16日です。新大統領が提案する具体的な対策が打ち出されたら、またこちらのコラムで取り上げていきたいと思います。