フランスでの資産運用においてAssurance Vie(詳しいご説明は当社のこちらのページからどうぞ)が必要不可欠な商品である、ということは当社のコラムでも何度かお話していますが、昨年末に可決された法改正により、そのAssurance Vieにいくつか変更が入りました。改革の大きな流れは2つあり、1つ目は富裕層、そして1997年以前に開設された口座に対する増税、2つ目はAssurance Vie内で『貯蓄から投資へ』という流れを促進することが期待される新制度の導入です。その内容を詳しく見てみましょう。

Assurance Vieの相続時の税制改革

Assurance Vieでは被保険者(通常はAssurance Vieの契約者)が死亡した場合、その口座残高が予め指定された受取人の元に支払われます。その金額に対して、2014年1月現在では、次のような決まりに基づいて相続税を支払うことになっています。

1. 被保険者が70歳未満の時にAssurance Vieの口座に入金したお金
・1998年10月12日以前に行われた入金に関しては、相続税はゼロ。
・1998年10月13日以降に行われた入金に関しては
(a) 受取人が配偶者、またはPACSのパートナーであれば、相続税はゼロ。
(b) それ以外の人が受取人である場合、Assurance Vieから受け取った金額に対して、通常の相続税の計算とは別枠で税額が算出されます。Assurance Vieから支払われる金額に対して、受取人1人当たり152 500ユーロの非課税枠があります。
非課税枠(152 500ユーロ)を引いた後の金額が :
→ 902 838ユーロ以下の部分に対しては20%
→ 902 838ユーロ超の部分に対しては25%
の相続税が課せられます。

2. 被保険者が70歳以上になってから入金したお金
受取人が配偶者、またはPACSのパートナーであれば、相続税はゼロ。それ以外の人が受取人となる場合、まずは投資金額と、そこから発生した利益の額とに分けて考えます。投資額に関しては【投資した金額-非課税枠(30 500ユーロ)】を他の相続財産と合わせて、通常の相続税の計算に基づき税額が算出されます。そして利益部分に関しては全て非課税になります。

今回の改革において、2014年7月1日以降の死亡によるAssurance Vieの口座からの相続に対して、上記1の(b)が次の様に変更されることになりました。
非課税枠(152 500ユーロ)を引いた後の金額が :
→ 700 000ユーロ以下の部分に対しては20%
→ 700 000ユーロ超の部分に対しては31.25%

つまり一人の受取人が、Assurance Vieから852 500ユーロ以上(EURJPY=141の為替レートではおよそ1億2000万円以上に相当)の財産を受け取ることになる場合、これまでよりも増税になります。いかにも社会主義政権らしい、富裕層に対する増税が行われた、という訳です。

社会保障負担

フランスでは利子所得に対して税金だけでなく社会保障負担(PRELEVEMENTS SOCIAUX)も課せられます。利子所得に対する社会保障負担課税は1996年2月から始まりました。当時の負担率は僅か0.5%。それがあれよあれよという間にどんどん上昇し、今では15.5%にまで達しています。Assurance Vieにおいては、株・債券ファンドなどリスク商品に投資している場合、口座からお金を引き出す際に一括で、利益部分に対して税金+社会保障負担(引き出す時点で適用されている税率)が課せられます。元本保証のユーロ・ファンドに投資している場合、税金部分はお金を引き出す際にのみ一括で課せられますが、2011年以降、社会保障負担だけは毎年、利息から天引されるようになりました。

しかし1997年9月26日より前にMulti-supportの契約(元本保証のユーロ・ファンドと株・債券ファンドの両方に投資できるAssurance Vie)に行なわれた入金に対しては、通常のパターンとは異なる非常に優遇された税制が適用されていたのです。前述しましたように、社会保障負担は1996年2月に導入され、以後、徐々に負担率が上昇しています。1997年9月26日より前に入金した金額に対しては、なんとこれまで、過去の利益に対してはその当時の社会保障負担率を支払うだけで済んでいたのです。

社会保障負担は下記のように上昇してきました。

具体的な例を挙げますと今回の改革が行われる前、1997年9月26日より前に行なわれた入金に対しては、口座からお金を引き出す際に、1997年に発生した利息に対しては社会保障負担が3.9%、1998年に発生した利息に対しては社会保障負担が10%・・・と現在よりも低い昔の負担率を支払うだけでよかったのです。条件に該当しない人がお金を引き出す場合は、現行の社会保障負担率(2014年1月現在15.5%)が課せられていることを考慮すると、「これはおかしい!」となって当然ですね。

今回の改正により、1997年9月26日より前に入金していた人たちに対しても、過去の社会保障負担率ではなく、現行の高い負担率が適用されることになりました。

Euro Croissance

フランス保険会社連盟(FFA)によると2013年11月時点でのAssurance Vieの預金総額は1兆4583億ユーロだそうです。ちなみに同時点のLivret Aの預金総額は2336億ユーロですから、いかにAssurance Vieがフランスの資産形成において重要なポジションにあるかが分かりますね。フランス人達は一般的にリスクを嫌いますので、Assurance Vieの入金総額のおよそ80%に当たる金額が元本保証のユーロ・ファンドに投資されていると言われています。貯蓄から投資へという流れを作りたいフランス政府は、今回の改革においてAssurance Vieに2つの新しい制度の導入を発表しました。その1つがEuro Croissanceです。元本保証のユーロ・ファンド内では、そのほとんどが国債や社債で運用されています。Euro Croissanceではその一部に株式を組み込むことによりユーロ・ファンド以上の利回りを目指し、入金から8年後には元本が保証される、という仕組みになります。元本保証のユーロ・ファンドと同様、各金融機関がそれぞれ自社のEuro Croissance を運用・販売することになりますので利回りは各社の実力次第となります。8年以上の長期投資をお考えの方で、ユーロ・ファンド以上の利回りを追及したい人向けの商品、という名目で本年度から商品化される予定です。

一見したところ、元本保証と高利回りがセットになった素晴らしい商品のように思われますが、懐疑的な見方をする専門家たちも多々いるようです。そもそも、『ファンド内に株を取り入れることによって、元本保証のユーロ・ファンド以上の利回りが期待できる』というのはあくまでも期待であり、実際のところどうなるのかは8年後にならないと分かりません。また元本が保証されるためには8年間、待たなければなりませんが、8年間もブロックされるのであれば、もっと高利回りを生み出す可能性の高い仕組み債に投資する、という手もあります。更に『8年後に元本が保証される』というのは入金から8年後を意味するため、例えば月々の積立てをする場合、積立てごとに、その8年後に元本が保証されることになります。Euro Croissanceは日々ファンドの基準価格が計算されることになりますが、投資してから8年以内においては、毎日、残高がマーケットの動きにより上下することになります。貯蓄の安全性を求める人が、日々の残高の上下を目の当たりにしてまで、将来得られるかどうかも定かではないプラスアルファの利益を求め、敢えてEuro Croissanceに投資をするかどうかは微妙なところと言えるかもしれません。

Assurance Vie内の金額の一部だけをEuro Croissanceに投資することもできますので、ご興味のある方は、例えば本来なら元本保証のユーロ・ファンドに入金する予定の金額の一部のみをEuro Croissanceに投資する、という形にするのもいいかもしれません。既にお手持ちのユーロ・ファンドからEuro Croissanceへお金を移動することも一定の条件を満たせば可能なのですが、その際には移動する金額の0.32%に当たる額を特別税として支払わなければなりません。

VIE GENERATION

口座残高の3分の1以上に当たる金額を中小企業、社会的住宅への融資関連、ベンチャー・キャピタルなどが含まれる一定の条件を満たしたファンドに投資することを条件に、通常のAssurance Vieよりも相続時の税金を低く抑えられる新しい制度『VIE GENERATION』が誕生する事になりました。『VIE GENERATION』はAssurance Vieと全く別の商品という訳ではなく、特別税制措置付きのAssurance Vieと言えます。

前述しました通り、2014年7月1日以降、被保険者が70歳未満の時にAssurance Vieの口座に入金したお金に関して通常、Assurance Vieの口座からの相続に対して、受取り人1人当たり152 500ユーロの非課税枠を引いた後の金額が、
→ 700 000ユーロ以下の部分に対しては20%
→ 700 000ユーロ超の部分に対しては31.25%
の相続税を支払うことになりますが、VIE GENERATIONを通じて支払われる金額に関しては、受け取る金額からまず特別控除の20%が引かれ、その残りの金額から非課税枠152 500ユーロを引き、その後20%、または31.25%の税率が課せられることになります。

Assurance Vieからの一人当たりの受取り金額により、相続税がどのような違いが出るか、次の表で確認してみましょう。


相続時に課せられる税額のみに注目すると、このVIE GENERATIONは魅力的ですが、口座残高の3分の1以上を中小企業やベンチャー・キャピタルなどリスク商品に投資しなければならない、というのはかなり厳しい制約ですね。VIE GENERATIONとは「政府が投資を促進したい業種にお金を回してくれるのであれば、税制面で優遇してあげましょう」というコンセプトの商品なのです。

日本でも「貯蓄から投資へ」を促すために2014年1月から少額投資非課税制度(NISA)がスタートしましたね。フランスのEuro CroissanceとVIE GENERATIONという新制度もNISAと同様、経済を活性化させるために貯蓄から投資へお金が流れるようにすることを目標としています。しかしながらリスク商品への投資はあくまでも自己責任ですので、慎重に行わなければなりません。口座全体の3分の1以上をリスク商品に投資しなければならないVIE GENERATIONはもちろんのこと、Euro Croissanceにもリスクはあります。Euro Croissanceに投資して、8年後に元本しか戻らなかった場合、それは「8年間、毎年インフレ分だけ資産が目減りした」ということを意味するからです。インフレのある国において「元本保証=ノー・リスク」ではない、ということは常に念頭に置かなければなりません。投資の選択肢が増えた分だけ、自分にとって最適な形を判断するために、これまで以上にしっかり検討する必要がありそうです。


Assurance Vieの改革が行われる、という噂が広まった当初、「もしかすると富裕層だけでなく全ての人たちに関わるほど大幅な増税が行われるのでは?」と金融業界は随分心配していましたが、実際、蓋を開けてみると、一部の契約に対する僅かな増税と2つの新制度の誕生、という比較的控えめな改革に終わりました。Assurance Vieに入金されている1兆4583億ユーロの多くはユーロ・ファンドを通じてフランス国債にも投資されているので、政府としてはAssurance Vieからお金が逃げ出すことを避けるためにAssurance Vieの優遇された税制の魅力をキープする方が、増税よりも得策と考えたのでしょう。今回の改革後も『長期投資においてAssurance Vieに勝る商品はない』という構図はまだまだ当分の間、続きそうです。