FNAIM(フランス不動産連盟)が発表した2007年1月に発表したレポートによると、2006年の不動産価格の年間上昇率は中古アパルトマンで+7.0%、一軒家で+7.2%、全てのタイプを合わせると+7.1%の上昇率でした。しかし、その価格上昇の勢いはずいぶん弱まってきています。
直近1年間の上昇率が、ここ数年どのように変化してきたのか、とても分かりやすく示されているのが下のグラフです。
不動産価格が上昇し続けていることは確かなのですが、その上昇率は、というと2005年1月を頂点にどんどん下がってきています。このグラフがこのまま右肩下がりに下り続けるのか、または上昇率0より少し上の辺りでストップするのか。現在、全てのフランス国民が注目しているのは、まさにこのポイントなのです。
上昇率は以前より遥かに緩やかになるが価格はこのまま高止まりするという、いわゆる『軟着陸』をするのか、それとも、90年代初めのように不動産価格崩壊が始まるのか。2007年に入り、この2つのシナリオが、あちこちで取り上げられるようになりました。
今回のコラムでは、ここ最近発表されたいくつかのレポートを取り上げ、各レポートが2007年の不動産市場をどのように予測しているのかを見ていきましょう。
FNAIM
フランス不動産業界を代表する組織FNAIMは、2007年の年間価格上昇率が3,5~5%と、かなり穏やかなものになるだろうと予想しながらも、価格の暴落などの心配は全くなく、今年も不動産は買いである、という展望を立てています。
FNAIMが根拠とするところは、1) 雇用改善や世帯所得の上昇など経済成長が見込まれる、2) 所得税の減税効果など税制の改革により国民の購買力が上昇する、3) 欧州中央銀行は間もなく利上げをストップするだろうし、住宅ローンの高額化、長期化のお陰でローンを組むための良い環境が整っている、4) 一定の所得水準以下の人に適用される金利0%のローン制度のお陰で、今まではマイホームの購入が出来なかった世帯も、購入に踏み切ることが出来るようになり、この流れは今後も続く、という4つの点です。
これは不動産業者の連盟であるFNAIMが、顧客である私たちに発信しているレポートである、ということをはっきり読み取ることが出来る、非常に楽観的な2007年不動産市場の予測となっています。
SNPI (Syndicat National des Professionnels Immobiliers)
SNPIとはフランス不動産業界に勤める人たちの労働組合です。SNPIが2006年11月に明らかにしたところによると、不動産価格は上昇し続けていますが、昨年の四半三期から既に売上高の停滞を確認したそうです。
組合に登録している540に及ぶ不動産業者へのアンケート結果によると、売買に関しては43%の人たちが2007年の不動産価格下落を予測しています。(上昇する、と答えた人は僅か8%)賃貸に関しては33%が下落、10%が上昇すると踏んでいます。
不動産業界の労働組合は、業界の生の声を反映しているのかもしれません。
Institut Precepta (Groupe Xerfi)
最悪のシナリオ「不動産価格暴落」を予測したのがこのInstitut Preceptaというリサーチ会社です。今日、不動産価格は国民の購買力の4倍の速さで高騰しています。収入が思うように上がらないのに、高騰し続ける不動産を購入できているのは、現在の低金利と、住宅ローンの長期化のお陰です。しかし金利は既に上昇傾向にあり、購買力は相変わらず低迷し続けたままです。このような状況下において、不動産価格がこのまま上がり続けるとは考えられず、2010年までに不動産価格は25%近く下落する可能性がある、というのがこのレポートの結論です。
Institut PreceptaはXerfiグループのリサーチ会社です。ここまで、はっきりと不動産市場のクラッシュを明言したのは、ここ数年発表されたレポートの中では、初めてなのではないでしょうか?果たして、このレポートは本当に不動産市場の未来を言い当てているのでしょうか?
Centry 21
日本でも有名な不動産会社Centry 21は、フランスの不動産市場に関して先述したPreceptaほど悲観的とは言わないまでも、「価格が下がり始める可能性がある」と、先行き不安定な予測を立てています。
このレポートの中で特に目を引いたのは、不動産購入を考える客層の中で、上位管理職と自由業の層が、急激に不動産マーケットから消え始めている、という事実です。これらの客層が不動産売買に占めた割合は、2004年に全体の17.5%だったものが、2005年には16.9%、2006年にはなんと9.7%に急激に落ち込んでいるのです。本来なら、この層は最も不動産投資を好む客層とされています。彼らが不動産市場から去り始めた原因は、2005年から比較的好調である証券市場に流れた、不動産投資よりも魅力的な他の投資対象を見つけた、大統領選が終わるまで待っている、などではないか、と見られています。投資の対象として、不動産を考える人が少なくなっていることは事実化もしれません。
これらのレポートが触れているように、不動産市場の動きは、不動産の需要供給のみならず、金利、政府による住宅関連の政策、またEU圏内のマーケットなど、様々な要素が複雑に絡み合っています。数々のレポートを読むことによって、より多くの情報が手に入ります。それらの情報をパズルの一片一片のようにつなぎ合わせることによって、2007年の不動産市場の予測が、はっきりではありませんが、おぼろげに見えてきます。
前回、不動産の価格についてのコラムを書いたときには、明らかに存在しなかったような悲観的なレポートが、ここ最近、ちらほらと出てくるようになりました。昨年までは快晴だった不動産市場に、じわじわと暗雲が立ち込め始めているが、まだ雨が降るかどうかは不明、というのが、2007年の不動産市場と言えそうです。