今年の1月25日付けのコラムの最後で、『昨年までは快晴だった不動産市場に、じわじわと暗雲が立ち込め始めている』と書きましたが、いよいよ不動産価格の下落が確認されるようになりました。
FNAIM(仏不動産連盟)の月間レポートによると、今年の7月に-0.5%、8月に-1.1%、9月に-0.5%と3ヶ月連続で中古物件の価格が下落しています。今年前半は不動産価格が上昇していたため、年間上昇率で見ると相変わらずプラスの4.7%になります。しかしながら、過去の年間上昇率が2003年に+14%、2004年に+15.5%、2006年に+7.2%だったことを考慮すると、ここ最近、急激に上昇率が弱まってきたことは確かです。今回のコラムでは、不動産価格下落のシナリオについて考えてみたいと思います。
ここ10年以上、高騰を続けていたフランスの不動産市場ですが、過去にはもちろん不動産価格の暴落を経験しています。直近の例で言うと、1990年代初頭に起きたクラッシュです。6年間の間、毎年二桁の上昇率を保った後、1992年から1997年という長い期間にわたってフランス不動産市場は下落を続けました。下のグラフはパリ公証人議会とINSEEが共同で出している、イル・ド・フランス地域のアパルトマンの価格指数の推移です。(2000年第4四半期の価格を100としています)
【表1】 イル・ド・フランスのアパルトマンの価格指数の推移
(出典 : Chambre des Notaires de Paris)
今回、再び長期にわたる価格クラッシュが始まるかどうかはまだ分かりませんが、不動産価格が下落するかもしれない理由はいくつか現れています。例えば、ここ10年の間に、不動産市場のみがバブル並みに上昇を続けているという現象です。上のグラフはイル・ド・フランス地域のアパルトマンの価格のみを示していますが、フランス全土のアパルトマン・一軒家を総合すると、ここ10年の間にフランスの不動産価格はほぼ2倍になりました。しかし同期間のGDPの成長率は26%、購買力も29%しか増加していません。この不動産価格の高騰がいかに異常な状況か、ということがうかがえます。ここまでの差が確認されたことは未だかつてないので、いまその歪みに調整が入ることは十分に考えられます。
次に住宅ローン事情から見てみましょう。低金利に支えられ、住宅ローンを組みやすかったということはもちろんですが、ローンの返済期間の延長も、不動産市場に大きな影響を与えていました。「低金利で、更に期間も長いローンを組めるから、資金に余裕のない世帯も不動産購入が可能」という状況が、不動産価格の上昇に一役買っていたのです。10年以上前は15年ローンが主流だったフランスですが、現在は日本のように30年ローンを組む人も増えてきました。平均ローン期間もどんどん延びていたのですが、これも永遠に伸び続けるものではなく、ついにその限界にきたようです。下の表は2004年から2007年の第2四半期までの、平均ローン期間を示しています。
【表2】 平均ローン期間の推移
(出典 : Empruntis.com, BIPE)
ローン期間の更なる長期化が不動産価格上昇の追い風となる時期は終わったようです。
さて次に新築物件の需要と供給を読み取ることができる数字を見てみましょう。下のグラフは新築物件を売却までにかかる期間(何ヶ月かかるか)、そして新築物件の在庫の推移を示しています。
【表3】 新築物件の在庫、およびその売却までにかかる期間の推移
(出典 : ECLN)
2004年に入ってから、在庫も急激に上がり、売却までにかかる時間もぐんぐん伸びていることが分かります。需要が弱まってきていることが、はっきり伝わってくるグラフですね。
今年1月25日付けのコラムでもご紹介した、『直近1年間の中古不動産価格の上昇率が、ここ数年どのように変化してきたか』を表すグラフの最新版は、下のようになります。
【表4】 フランス全土の中古不動産価格の年間上昇率の推移
(出典 : FNAIM)
ここまで右肩下がりになっている市場が、上昇率0%のところまできたらピタッと下降を止めると考えるのは、あまりに楽観的過ぎるのではないかと私は思うのですが、みなさんはどのようにお考えでしょうか?ちょうど大きな流れが変わりそうなフランス不動産市場から、ますます目が離せませんね。今後の動向については、来年も引き続きこちらのコラムで取り上げていく予定です。