7月31日、オランド新政権になって初めての金融法改正案が可決されました。富裕層や余裕のありそうな人たちには思い切った増税を行う代わりに、貧困層にまで影響が及ぶ消費税の増税は敢えて撤回する、といった、いかにも社会主義らしい法改正が実施されることになりました。オランド政権の金融法改正第1弾における主な項目を確認してみましょう。
付加価値税(TVA)増税の撤回
サルコジ前政権は今年10月から付加価値税(TVA)の引き上げを予定していましたが、オランド政権はこれを撤回することにしました。フランスでは付加価値税が4段階になっていて、標準税率が19.6%、観光、文化・芸術などに課せられる軽減税率が7%、食料品やエネルギーなど生活必需品に対する軽減税率が5.5%、医療用医薬品などごく一部の商品に課せられる超軽減税率が2.1%となっています。サルコジ前政権はその最高税率19.6%を21.2%に引き上げる計画を打ち出していましたが、この増税計画は正式に撤回されました。
ISF(連帯富裕税)減税の撤回
これも付加価値税(TVA)と同様、サルコジ前政権の計画を撤回するものです。ISFの改革に関しては今年の秋から本格的な話し合いが始まる予定ですが、それまで待ってはいられないとばかりに、本年度徴収分に関する応急策が取られることになりました。サルコジ前政権は昨年度の税制改革において、2012年度からのISFの大幅減額を決定しました。詳細は当社の過去コラムをご参照ください。ISFとは不動産を含めた資産総額が130万ユーロ(約1億2800万円)以上の世帯にのみ課せられる資産税のことです。しかしながら「富める者からはより多くの貢献をしてもらおうじゃないか」という社会党の考えと、ISFの減額は真っ向から反対するものですので、当然といえば当然のごとく、本年度のISFは昨年度と同様の高い税率に戻されることになりました。ところが資産が300万ユーロ超の世帯は本年度のISFの申告・支払いを今年の6月に既に済ませています。そこで政府は苦肉の策として、「2012年度のISFの税率を2011年度の税率に戻す。本年度、既に支払った金額と、本改革後に支払うべき金額の差額は『特別貢献』として請求し11月15日までに支払ってもらう」ということに決定しました。
昨年度のISF改革では (1) これまで課税資産評価額が80万ユーロ以上の世帯からISFが課せられ始めていたところ、今後は評価額が130万ユーロ以上の世帯だけに課せられるようにする、(2) 税率が大きく引き下げられる、という2点が変更になりましたが、オランド新政権によって撤回されるのは (2) の税率のみです。よって資産額が80万ユーロ以上130万ユーロ未満である『小金持ち』はサルコジ前大統領の意向通り、このままISFが課せられないで済むことになります。
親から子に対する贈与・相続税の負担増
親から子に対する贈与・相続における非課税枠が大幅に引き下げられることになりました。これまでは一人の親から一人の子供に対する贈与・相続に関して、過去10年の間に渡した金額のトータルが159 325ユーロ以下であれば非課税となっていたところ、今後は過去15年の間に100 000ユーロまでしか非課税で渡せないことになります。フランス居住者はこれまで以上に、相続対策をなるべく早目に行う必要がありそうですね。
社会保障費負担率の引き上げ
フランス居住者は、株売却益や預貯金の利息、また不動産売却益などに対して、税金だけでなく社会保障費負担も支払っています。その社会保障費負担率が2%アップとなり、15.5%に引き上げられることになりました。税金も社会保障負担率も、どちらも毎年じりじりと上昇しているので、今までよりも更に慎重に、そしてより上手に資産運用をしていかないと、満足できる収益率を達成することが難しくなってしまいそうです。
非居住者の不動産所得・売却益に社会保障負担が課せられる
前述の社会保障費負担はフランス居住者に限られていたのですが、今回の改革により、非居住者でも不動産所得および不動産売却益に関してのみ、社会保障費負担も課せられることになってしまいました。社会保障費負担は2012年8月現在15.5%ですが、先程お話しましたように、ほぼ毎年のようにこの負担率は上昇しています。これまで社会保障費負担が一切課せられなかったところ、いきなり今年から不動産関連の利益に対して15.5%を徴収され始める訳ですから、フランスで不動産投資をする非居住者にとってダメージはかなり大きいでしょう。不動産市場全体への影響も心配ですね。
フランスでは政府が変わると新政策が矢継ぎ早に打ち出され、あっという間に国会を通り、新法が施行され始めます。大統領が誰になるかにより国民の生活に直接的な変化が生じますので、結果として国民の政治に対する関心も非常に高くなっています。今回の改革において増税を強いられることになる富裕層達は面白くない思いをしていますが、もしオランド政権が税収を効率的に使い、停滞しているフランス経済を回復させることができれば、彼らの不満も大分和らぐことでしょう。反対にもし現政権が景気を刺激できなかったら、社会党政権は5年後の次期大統領選挙時に終焉を迎えるかもしれません。国民全ての願いはずばり『経済成長』です。財政難にあえぐ政府にとっては難題だと思いますが、何とか結果を出してもらいたいところですね。