フランスの不動産価格が遂に大きく下落し始めました。フランス人たちの関心は「一体、いつまでこの下落が続くのか」ということに集まっています。現在の仏不動産市場で何が起こっているのでしょうか?

直近の不動産価格の動向

2020年から徐々にフランス不動産市場の勢いはなくなり始めていましたが、昨年以降は誰の目から見ても、不動産価格が下落サイクルに突入していることが明らかとなりました。これほどの危機状況は久しぶりのことで、1990年代に発生したフランス不動産バブル崩壊と今回の下落を比べる業界関係者も多く見受けられます。

INSEEが公表した数値によりますと、2023年度第4四半期のフランス全土の中古物件価格は、前年同期比でマイナス4%となりました。下記のグラフは2011年から2023年末にかけての中古物件の価格上昇率の推移を示しています。怖いくらいの急降下ですね。

表1 中古物件価格の変動率の推移

(出典 : INSEE)

上記のグラフは昨年度末までの下落率を示しています。フランス公証人議会の最新のレポートでは、2024年2月末の数値までが公表されており、本年度に突入してから下落が更に加速していることが確認できます。「需要が高いから、パリの不動産価格は下がらない」とまことしやかに伝えられてきた神話も崩れ去り、2024年2月時点で、パリ市内の中古アパルトマンの価格の下落率は前年同月比でマイナス7.3%となっております。下記のグラフはパリとパリ近郊の中古アパルトマンの1平方メートル当たりの地価の推移を示しています。

表2 中古アパルトマンの1平方メートル当たりの価格推移
(点線で示された2024年6月の数値は公証人議会の予想値)


(出典 : パリ公証人議会)

微妙に上がったり下がったり、という状況が繰り返されていたために、これまで分かり難かったのですが、パリの不動産価格は2020年度から既に下落基調に突入していたようです。本年度2月時点で、直近4~5年のパリの不動産価格の上昇が全て打ち消されたような形となっています。

不動産市場にここまでの下落をもたらした最大の要因は、急騰した住宅ローン金利です。

昨年度、一時的に4%を超えた住宅ローン金利

今から約2年半前、2021年第4四半期時点の住宅ローンの平均金利は1.06%でした。それが中央銀行の急ピッチな利上げにより、2023年第4四半期には4.24%にまで跳ね上がりました。住宅ローンの急騰はどうやら昨年末にピークアウトしたようで、2024年4月の平均金利は3.81%に下がりました。2001年から2024年4月までの住宅ローンの平均金利の推移を見てみましょう。

表3 住宅ローン金利の推移(%)

(出典 : OBSERVATOIRE CREDIT LOGEMENT / CSA)

下記の表は、2021年12月から2024年4月の間における、住宅ローンの平均金利を借入期間ごとに記載したものです。昨年末は短い借入期間の人でさえ、4%以上の住宅ローンを提示されていたのです。

表4 借入期間ごとの住宅ローン金利の推移(%)

(出典 : OBSERVATOIRE CREDIT LOGEMENT / CSA)

今年に入ってから、住宅ローンがようやく下がり始めたため、「また不動産市場は元気になるのではないか?」と不動産業界に勤める人たちは淡い期待を抱いているようです。しかしながら、買い手はまだすぐには動きそうにありません。

様子見の姿勢を続けるフランス人

2024年2月時点での、フランス全土における直近1年間の中古物件の販売件数は835,000件でした。これは1年前と比べると23%減で、フランス公証人議会によりますと『未だかつてフランスの不動産市場が見たことのない販売件数の落ち込み』だそうです。

不動産サイトには、売り手が希望する販売価格が表示されておりますので、広告だけを見ると不動産価格がほとんど下落していないかのような印象を受けてしまいますが、金融雑誌のMieux Vivre Votre Argentによりますと、現在の弱気相場において、買い手は表示価格からほぼ必ず4~5%の値下げを要求しているそうです。

2025年以降、エネルギー性能診断(DPE)のランクが低い物件の賃貸が段階的に禁止されることも、不動産価格に大きな影響を与えています。DPEにより物件は最良のAからGまでの7つのランクに分けられます。不動産販売サイト『Se Loger』のレポートでは、同じ大きさや条件の物件でも、Gランクですと約16%の割引をせざるを得なくなることが報告されています。

「今年に入ってからようやくローン金利が下がり始めたばかりだ。もう少し待てば、もっと低い金利でローンを組めるかもしれない」そして「不動産価格はまだまだ下がるだろう」という思惑により、様子見の姿勢を決め込む買い手が非常に多いようです。


今回の大型のフランス不動産価格の下落は、しばらく続きそうです。しかしながら金利が徐々に下がり始めましたので、今後の下落率は多少控えめになることが予想されます。1990年代のフランス不動産バブル崩壊時、パリの1平米当たりの平均価格は1991年から1998年にかけて36%も下落しました。当時と今では物事のスピードが異なりますので、今回の下落サイクルが前回のように7年間も続くことはないと思われます。しかしながら、現在の高いローン金利や賃貸物件の規制を考慮しますと、早くも年内に再び不動産価格が上昇し始める、などということはまず、あり得ないでしょう。

先日、不動産業界の人が多く訪れる会合に参加した時に、「昨年までは単に『不動産市場はちょっとした風邪を引いているだけだ』と言える程度の不調だったが、今現在の不動産市場は完全に停止してしまっている」と暗い顔で代表者がスピーチしている姿を見て、不動産市場停滞の深刻さを垣間見た気がしました。

現在の不動産下落サイクルが何をきっかけに、どのような形で終わるのか、今後の動向を興味深く観察していきたいと思います。